大判例

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京都地方裁判所 昭和50年(わ)162号 判決

本籍

京都市上京区小川通丸太町上る上鍛治町三二九番地

住居

京都市中京区竹屋町釜座西入る指物屋町三六五番地

会社役員

深田修作

昭和一二年四月三日生

主文

被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は京都市中京区両替町通御池上る金吹町四五三の一において深田商店名下に京染呉服の製造卸売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て

第一、昭和四六年分の総所得金額は五七、九一〇、九九五円で、これに対する所得税額は三一、九七一、七〇〇円であったのに、公表経理上架空仕入を計上するほか、期末の決算に際してたな卸金額の一部を除外し、仕入を水増しするなどの不正な利益操作を行うことによりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四七年三月一四日京都市上京区一条通西洞院東入所在の所轄上京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が二六、〇八一、六〇二円で、これに対する所得税額が一二、〇一五、三〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、よって同年分の正当な所得税額と申告にかかる所得税額との差額一九、九五六、四〇〇円を免れ

第二、昭和四七年分の総所得金額は九七、三八〇、二三六円で、これに対する所得税額は六一、一五六、三〇〇円であったのに、期末の決算に際してたな卸金額の一部を除外し、仕入及び経費を水増しするなどの不正な利益操作を行うことによりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四八年三月一五日京都市中京区柳馬場二条下る等持寺町所在の所轄中京税務署において、同税務署長に対し、同年分総所得金額が四九、四三九、二五八円で、これに対する所得税額二六、三五〇、六〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、よって同年分の不当な所得税額と申告にかかる所得税額との差額三四、八〇五、七〇〇円を免れ

第三、昭和四八年分の総所得金額は一二三、一六四、一三二円で、これに対する所得税額は七九、四六九、五〇〇円であったのに、前記第二と同様の不正な利益操作によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四九年三月一五日前記中京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が六一、〇六七、九六四円で、これに対する所得税額が三三、八八五、四〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、よって同年分の正当な所得税額と申告にかかる所得税額との差額四五、五八四、一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人の

(一)  第一、第二回公判調書中の供述部分

(二)  検察官に対する各供述調書

(三)  大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、証人水野良博の当公判廷の供述

一、第九回公判調書中証人槇実の供述部分

一、村瀬昇、宮崎敬一郎、深田晋三、谷美嗣、宮里政士、石川元次浦、崎直次、中村静、三崎 一、福永匡利の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、花木久、瀬川和男、実松国昭、小西幸二郎、駒宮康治郎、近藤 作成の各確認書

一、国税査察官水野良博、内藤礼郎、岩井義清、槇実作成の各調査報告書

一、所得税確定申告書謄本三通(検甲第二ないし第四号)

一、押収中の総勘定元帳二綴(昭和五〇年押第一三七号の二、一三)、試算表三綴(同号の三、四、一〇)、支払明細書二枚(同号の五、六)、たな卸集計表二綴(同号の七、一二)、仕入、売上実績対比表一綴(同号の八)、支払予算表一綴(同号の九)、賃貸借契約書(写)一綴(同号の一一)、ガレージ代集金台帳一綴(同号の一五)

(適条)

各所得税法二三八条一項、二項、以上につき刑法四五条前段、四七条、一〇条、四八条により併合罪加重

労役場留置につき同法一八条

懲役刑の執行猶予につき同法二五条一項

訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文

出席検察官 森岡一郎

(裁判官 川鍋正隆)

昭和五二年(う)第一二七〇号

控訴趣意書

所得税法違反 深田修作

右被告事件につき昭和五二年九月二〇日京都地方裁判所が言渡した判決に対し控訴を申立てた理由は左記のとおりである。

昭和五二年一一月三〇日

弁護人 佐賀義人

大阪高等裁判所

第五刑事部 御中

原判決は、昭和五〇年三月五日付起訴状記載の公訴事実どおりの事実を認定し、被告人を懲役一年(二年間刑の執行を猶予)及び罰金二、〇〇〇万円に処した。右の認定事美は併合罪の関係にあたる三個の事実であるが、このうちの第三事実、すなわち昭和四八年分の所得税ほ脱の事実が有罪の対象とされている点、並びに罰金刑が過重である点に不服がある。

右第三事実は「被告人は深田商店名下に京染呉服の製造卸売業を営んでいたものであるが、所得税を免れようと企て、昭和四八年分の総所得金額は一二三、一六四、一三二円で、これに対する所得税額は七九、四六九、五〇〇円であったのに、期末の決算に際してたな卸金額の一部を除外し、仕入及び経費を水増しするなどの不正な利益操作によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四九年三月一五日中京税務署において、同税務署長に対し、同年分の総所得金額が六一、〇六七、九六四円でこれに対する所得税額が三三、八八五、四〇〇円である旨虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、よって同年分の正当な所得税額と申告にかかる所得税額との差額四五、五八四、一〇〇円を免れたものである。」というのであり、原判決はこれをそのまま認定し有罪としたが、原判決が「たな卸金額の一部除外」があったとした点及び被告人にほ脱の犯意ありとした点は、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認であり、また被告人に対する罰金二千万円の言渡は重きに失するものであるからこれを破棄されたい。以下、その理由を述べる。

第一、事実誤認

一、昭和四八年期末にはたな卸商品はなく、従って期末商品たな卸金額の一部除外という事実はない。

原審でも主張したことであるが、所得税法の対象年度は毎年一月一日にはじまり一二月末日をもって終る。期首は一月一日であり期末は一二月三一日である。従って昭和四八年度の期末たな卸商品、期末在庫というのは同年一二月末に存在するたな卸商品でなければならぬ。ところが、被告人は昭和四八年一二月二五日限りで深田商店を廃業し、いわゆる「法人成り」で、「深田株式会社」が設立され、従来の深田商店の在庫商品を含め一切の資産、負債が同会社に譲渡移転された。このことは原審での被告人の供述のみならず、原審で取調べられた証拠物「法人設立関係書類綴」「深田株式会社試算表綴」「会計伝票一綴」「深田株式会社総勘定元帳」「同会社手形受払帳二冊」の各諸帳簿類の記載に徴しても明らかである。従って、深田商店の在庫はすべて同年一二月二五日をもって深田株式会社へ譲渡され、一二月末日には深田商店の在庫は「ゼロ」であった。よって昭和四八年期末のたな卸金額というものは発生の余地なく、その一部除外ということもあり得ない。問題として残るのは、深田商店から深田株式会社へ譲渡された商品の金額、すなわち深田商店としての売上金額がそのまま是認され得るものかどうかということであるが、これはたな卸とは別の事柄であり後述したい。

原裁判所は、昭和四八年度期末におけるたな卸不存在の主張を認めず、期末たな卸金額の一部除外という事実を認定したが、その判決にあたり口頭でその理由を説示された。それによると、被告人の営む深田商店の経理会計は毎年一二月二五日で締切っていたのであるから、被告人に関する限り昭和四八年期末は同年一二月二五日であるとの趣旨であった。そのような観念からすれば「期末たな卸額の一部除外」という認定は首肯し得ないものでもないが、深田商店の経理会計が毎年一二月二五日で締切っていたのが現実であったとしても、それによって所得税の対象年度の期末が一二月二五日になるわけがない。

所得税は個人の所得に課されるものであるが、個人の所得は営業所得に限らない。配当所得、利子所得、不動産所得等、種々の所得がある。営業に関し経理会計を毎月二五日で締切り翌日以降の分を翌月度分として計算するという方式、その結果として年度末についても毎月一二月二五日で締切るという方法をとっていたとしても、それは帳簿上、計算上の便宜によっただけのことであり、所得税の対象年度の始期、終期を変更するものではない。不動産所得や利子所得などは一二月二五日以降にも発生する。事業所得だけは期末が一二月二五日でその余の所得については期末が一二月三一日であるという考えは、所得税法の全く予想しないことであろう。二〇日締切りといい、二五日締切りというのは諸支払いとの関係で各営業主が便宜きめているだけのことで、所得税法の対象年度の範囲とは関係のないことである。深田商店の営業について言えば、毎年一二月二五日で会計を締切っていたのみならず、その後は殆ど営業活動をしないのが毎年の例であった(原審での被告人の供述)から、所得税の計算上は一二月二五日までを考慮すれば足りた。税務当局としても、それを認めても何ら不都合はなく、かりに一二月二六日以降の収入があったとしてもそれを翌年分に組み入れて計上されれば租税回避にもならないから特段に異議をはさむことでもなかった。しかし、それはあくまでも双方の便宜上の取扱いにすぎず、そのような便宜上の扱いが数年来継続されていたからと言って、所得税の対象年度の期首や期末が変動するものではない。深田商店の昭和四八年度期末には在庫商品は不存在であり、期末たな卸金額なるものはなく、その一部除外ということもあり得ないことであった。

二、被告人の深田株式会社に対する在庫商品譲渡とそれによる収入について。

深田商店は昭和四八年一二月二五日に廃業し、これと同時に深田株式会社が法人税法第三条にいうみなし法人として発足した。その際、深田商店の在庫商品一切が深田株式会社に金九一、六八二、五四四円で譲渡された。被告人は同会社に対し同額の「未払金」債権を取得した。そして深田株式会社がその譲受、債務発生などを会社帳簿に記帳したことは、前掲の証拠物たる各諸帳簿で明らかである。被告人のこの譲渡収入は営業活動の一環として、廃業の際の売上と認めるのが相当であるから、右金額は売上金額として計上され申告されるべきものであった。ところが被告人はこれを期末商品たな卸高として計上申告し、本件の査察調査の過程でもこれを売上金とはせず、たな卸の科目のままで処理された。そして右九一、六八二、五四四円という数字は、期末商品たな卸高としてその妥当性を追求され、結局は二〇九、三四六、三〇九円と評価されて、増差額一一七、六六三、七六五円のたな卸額除外があったと認定された。その経過は本件記録を通じ明らかである。

しかし、右の在庫商品の譲渡が事実である以上、それは期末商品たな卸高という科目で処理すべきではなく、売上高の科目で処理されねばならなかったこと当然である。

ところで、この売上は被告人にいくらの収入をもたらしたのであろうか。この売上に対する被告人の収入は、その代金相当の「未払金」債権であり、前記諸帳簿上明らかな金九一、六八二、五四四円であった。それが被告人の現実に取得した利益であり収入であった。ところが査察部はこれを否認し、たな卸評価の手法に基き、右商品を前記の二億円余と評価したこと前述したとおりで、深田株式会社の右商品のたな卸高を二億円余と修正させ、前掲諸帳簿の数字を変更させた。しかし所得税の対象となる所得は被告人の現実に取得した所得そのものであってたな卸評価額ではない。そうだとすれば、その売上所得は現実の譲渡額九一、六八二、五四四円に外ならず、それ以上ではない。本件の起訴、そして原判決が、被告人の在庫商品譲渡収入が現実に右のごとく九一、六八二、五四四円であったのに拘らず、期末たな卸評価としての金額二億円余の数字を持ちこんで、これをそのまま収入とし所得としたのは甚だ疑問である。

この点について、原審での証人槇実の供述記載、あるいは水野良博の証言にみられるように、所得税法第四〇条第一項第二号、第二項の存在が指摘されている。すなわち、本件に即して言えば、深田個人から深田株式会社に対する在庫品譲渡の額が現実に九千万円余であったとしても、それが「著しく低い価額の対価による譲渡」-所得税取扱通達四〇-二によれば通常の販売価格のおおむね七〇%に満たない対価-である場合には、「実質的に贈与をしたと認められる金額はその年度分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入する。」とされる。その結果、前記二億円余との差額一億一千七百万円余も、実質的に贈与した額であるから、昭和四八年度の被告人の事業所得として総収入金額に算入される。現実には九千万円余の収入であっても、右規定が働く結果、二億円余の収入として計算する、というのが右規定の趣旨である。従って、被告人が右商品を深田株式会社に譲渡した対価が現実には九千万円余であっても、所得申告上はこれを二億円余として計算し、その金額で確定申告すべきものであったとされることになる。

被告人は不幸にして所得税法第四〇条の存在を知らなかった。ただ、新らしく発足する深田株式会社に過大の負担をかけ、その運営をいたずらに困難ならしめることを避けたいという意図から、その在庫商品を時価より若干の低額で深田株式会社へ譲渡した(原審での被告人の供述)。この場合でも所得税法第四〇条が働く結果、右会社に対する贈与相当分-本件ではそれが一億一千万円余とされている-が事業所得として総収入金額に算入されるのはけだしやむを得ないことであろう。しかし、それはあくまでも課税技術としての収入金額の計算方法に従った結果にすぎない。収入金額の計算方法がそうだからといって、九千万円余という収入金額が現実に二億円余の収入があったことに変るわけはない。収入金額の計算方法はあくまでも課税上の計算方法にすぎず、現実の収入の額を左右するものではない。所得税法第四〇条第一項第二号も「実質的に贈与をしたと認められる金額」という表現をしている。すなわち、所得税法自体が実質的贈与、計算上の収入という観念に立って、実質的には贈与であり実質的には収入でないけれども、税法上の計算方法として、実質的には贈与である金額を敢て収入金額に計上させることにしたのであった。実質的には贈与であり贈与税の対象として取扱い得る場合ではあるが、譲受人に対しては受贈与とせず贈与相当分を含めたいわゆる時価で譲受けたものとみなし、譲渡人についても同様に贈与相当分を含めた時価で譲渡しそれに相当する収入を得たものとして計算することとしたのが同規定であった。所得税法第四〇条は、このように低額譲渡についての収入金額の計算方法を定めたものであるが、それ以上の意味をもつものではなく、現実の収入、実質的収入の額そのものを変更するものではない。本件で、被告人が深田株式会社に譲渡した在庫商品の対価が現実に九一、六八二、五四四円であった以上は、収入計算方法如何にかかわらず、被告人が現実に取得した収入は九一、六八二、五四四円であったとせねばならぬ。ただ、所得申告にあたっては、右の現実収入の額にかかわらず、所得税法第四〇条が適用される結果、これを二億円余として計算し申告すべしとされるだけのことにすぎない。

結局、所得税法第四〇条第一項第二号、第二項の規定により、被告人の在庫商品売上収入金額として計算し申告さるべき金額は前記の二億円余とされねばならぬが、被告人のこれによって得た現実の収入、実質的収入はあくまでも九一、六八二、五四四円であったことは間違いないことであった。

三、被告人は在庫商品売上について税ほ脱の犯意はなかった。

被告人の商品売上は、昭和四八年一二月二五日までに確定申告記載のとおり金九四七、八九六、〇七二円であり、同日深田株式会社の法人成りに際し同会社へ在庫商品一切を九一、六八二、五四四円で譲渡したことも縷々述べたとおりである。そして被告人が深田株式会社に対し右同額の「未払金」債権を取得し、同額の収入を得たことも前述した。その間、被告人と深田株式会社との間には何の裏取引もない。実際はそれ以上の額で取引しながら、帳簿上の対価を右金額に減縮した形跡も全くない。被告人としては、在庫商品を九一、六八二、五四四円で同会社に売却し現実にそれだけの収入を得たのだから、その金額をそのまま収入として計上し所得申告したというだけのことであった。所得税法第四〇条の適用を知らなかった結果、収入金額の計算方法を誤り、実質的には贈与と認められる金額を収入として算入せず、税法上は過少申告に帰したのはやむを得ないことであり、遺憾なことではあったが、実質的収入を敢て過少に申告したものではなく、その意識も意思もなかった(原審における被告人の供述)。従って、この深田株式会社に対する在庫品譲渡に関する限り、収入金額計算方法の過誤があったにせよ、ことさらに実質的収入金額を操作し所得税を免れようとする意識がなかったと言わざるを得ない。

このような場合、所得税ほ脱の犯意があったとなし得るのであろうか。九一、六八二、五四四円の対価をそのまま自己の引継書類にも、相手方たる深田株式会社の諸帳簿にも記載し、自らも同会社に対し同額の債権を取得したにすぎないと信じていた以上、その金額に関する限り詐欺その他不正の行為はない。また、売上高の科目に記載すべきものを期末商品たな卸高の科目に計上したという誤りがあったにせよ、実質的収入額をそのまま申告書類に記載し申告しているのであるから、税を免れる意思をもって申告したことにも当らない。深田株式会社に対する売上に関しては収入計算方法の過誤があったけれども、税を不当に免れるほ脱の犯意がなかったと認めざるを得ないのではあるまいか。

そうだとすれば、検察官冒頭陳述書添付の昭和四八年度脱税額計算書説明資料(損益)の修正損益計算書の「期末商品たな卸高」科目を「売上」科目とするとともに、当期増差金額一一七、六六三、七六五円はともかく、「内犯則金額」欄の同額の数字は、犯意なく収入計算方法の過誤によるもの、犯則所得ではないものとして抹消されて相当である。一一七、六六三、七六五円の増差額は修正申告ないし更正決定の対象とされるであろうが、所得税ほ脱犯の対象とさるべきではないからである。その結果、昭和四八年年度については既に三三、八八五、四〇〇円の申告納税を終えている以上、ほ脱の事実もないことに帰する。

なお、ほ脱犯については概括的故意をもって足るとするのが判例である。本件の場合、昭和四八年度についてはいわゆる経費水増し等で税を免れようとしたものである以上、同年度分の全体について概括的にほ脱の犯意が全くなかったわけではない。しかし、深田株式会社に対する売上については具体的にほ脱の犯意がなく、その取引についての収入計算上の過誤があったにすぎないのであるから、それをほ脱金額に含めて被告人の罪責を問うことは相当でない。概括的犯意があったとしても現実にほ脱の犯意のない取引、その金額をほ脱犯の犯罪事実に含め脱税額を過大に認定することは失当である。

第二、量刑不当

被告人に対する原判決の量刑は、懲役刑についてはともかく、罰金二千万円の言渡しは次の諸点に鑑み重きに失するものと思われる。

(1) 被告人は本税、加算税等の納付に誠意をつくしており、反省の色が顕著である(弁甲第一ないし四号証)

(2) 被告人は本件のための税納付にその個人資産のすべてを処分し今や無資産の状態にあり、多額の罰金の負担は事実上被告人に労役場留置を余儀なくさせる結果となっている。

(3) 被告人に対する換刑処分は、不況下にあってさらぬだに経営に困難をきたしている深田株式会社の運営を一層危殆に瀕せしめることとなり、あまりにも苛酷な結果にいたる危険がある。

(4) 被告人には前科前歴なく、京都織物卸商業協同組合の役員として活動し、業界の信用も多大である。

(5) 本件犯行についても、既に述べたとおり、昭和四八年度の犯則の大半は被告人に不当に利得を与える性格のものではなく、犯情甚だ同情の余地がある。

(6) 被告人が本件刑事処分に伴って受けた経済上、精神上の負担は重大であり、反省の念も深刻で再犯の虞はない。

以上

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